人は百年で死ぬのに、樹木はなぜ千年以上生きて巨大になるのか

人は百年で死ぬのに、樹木はなぜ千年以上生きて巨大になるのか

鹿児島県姶良(あいら)市の蒲生八幡神社にあるクスノキは、高さ30m、幹周り24mもあり、樹齢は1,600年にもなります(*1)。日本最大の樹木で、国の特別天然記念物に指定されています。
これでも十分すごく大きくすごく長生きですが、世界に目を向けるとメキシコには幹周りが36mもある「トゥーレの木」というスギ科の木があります。
アメリカには高さ115mの「ハイペリオン」というセコイアスギや、樹齢5,000年以上というイガゴヨウマツがあります(*2、3、4)。

成人が両手を広げた長さは1.5mくらいなので、36mの幹を囲むには24人で手をつなぐ必要があります。
高さ115mはビル30階に相当します。
そして5,000年前には、ピラミッドすら建設されていませんでした。

人間はせいぜい、高さは2mくらい、寿命は100年くらいなのに、なぜ樹木はこれほど巨大で、これほど長寿になることができるのでしょうか。

*1:http://www.kamou80000.com/okusu.html
*2:https://www.wood.jp/kaibori/mex/tule.htm
*3:https://shiroitani-koubou.com/news/%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%80%E9%AB%98%E3%81%84%E6%9C%A8%E3%80%8C%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%80%8D/
*4:https://logmi.jp/business/articles/125341

結論:そういうふうにできているから

先に結論を紹介します。
人間が高さ2m・寿命100年で、樹木が巨大・長寿なのは、そういうふうにできているからです。
人間が偶然に100年ぐらいで死ぬことが多く、樹木が偶然に1,000年生きるわけではありません。
体の仕組みが違うことで、小さいまますぐに死んでしまう生物と、いつまでも大きくなっていつまでも生き続けることができる生物がいるわけです。
樹木は人間をみながら「小さいまますぐに死んじゃうんだね」と思っているかもしれません。

細胞の違いが生涯を変える

細胞の違いが生涯を変える
細胞の違いが生涯を変える

人と樹木の体の仕組みで最も大きく異なるのは、細胞です。細胞が異なると、生物の生涯が変わってきます。

人間を含む動物の細胞を囲っているのは、柔らかい細胞膜です。細胞壁はありません。
樹木を含む植物の細胞には細胞壁があります。「壁」というだけあって、かなり強度が高い細胞壁もあります。

細胞が柔らかいのに、人間がその形を保っていられるのは、骨があるからです。そして細胞が柔らかいから、人間は関節を使って骨を動かせば自由に動くことができます。
樹木が、骨がないのに形を保っていられるのは、細胞壁があるからです。

人の細胞は死ぬように仕組まれている

人の細胞は、死ぬようにプログラムされていて、これを「アポトーシス」や「制御された細胞死」と呼びます(*5,6)。死ぬようにプログラムされている、と聞くと恐ろしい印象を持つかもしれませんが、死んだ細胞のあとに新しい細胞が置き換わるので、アポトーシスは「よい現象」といえます。

アポトーシスは、普段の生活のなかでもみることができます。
皮膚をカッターナイフで切ってしまうと、皮膚の細胞が増えて傷口をふさぎますが、傷口がふさがるとそれ以上は増えません。これは、細胞が増えるのをやめるからです。
大人になると身長の伸びが停止するのも、人の細胞にそのようにプログラムされているからです。つまり、身長3mになるようなプログラムにはなっていません。

では、樹木の細胞は死なないのかというと、そうではなく、死にます。
しかし、樹木は頑丈な細胞壁を持っているので、細胞が死んでもいくらでも大きくなることができます。

*5:https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/apoptosis-and-necrosis-antibodies-pgi.asp?entry_id=36754
*6:https://ganjoho.jp/public/dia_tre/knowledge/cancerous_change.html

樹木の細胞は死んでも働く

樹木を含む植物は、2つの先端の細胞だけが増える、という性質あります。この性質を「軸性」といいます(*7)。
2つの先端とは、茎の先端と根の先端です。
古い細胞の先に新しい細胞ができ、その先にさらに新しい細胞ができる、という形で樹木は成長していきます。それで植物は、地上では上へ横へと伸びていき、地下では奥へ奥へと伸びていきます。

樹木の細胞も死にます。そして古い順に死んでいきます。
樹木は先端の細胞だけが新しくなるので、体の中心に近い細胞から死んでいくことになります。
しかし樹木の死んだ細胞は、壊れません。なぜなら、細胞壁によって強度が保たれているからです。死んだ細胞も、樹木の体を支える骨組みとして役に立ち続けます。

樹木の細胞は死んでも働く
樹木の細胞は死んでも働く

樹木の死んだ細胞は、そのほかの仕事もします。
樹木は、根を使って、土のなかの養分と水分を吸い取っています。養分と水分を体の隅々にまで行き渡らせる管のことを導管といいます。
死んだ細胞は導管の一部を構成します。
また、樹木を覆っている樹皮の死んだ細胞は、そのまま残って病原菌などが内部に侵入しないように防いでいます。

死んだ細胞もとどまり、新しい細胞が増えるだけ

樹木の死んだ細胞が、そのまま生きた樹木に残り続けているということは、死んだ細胞が新しい細胞に置き換わらないということです。
死んだ細胞が残り、新しい細胞が次々生まれるので、樹木はいつまでも伸び続けます。これが、樹木が巨大化する秘密です。

死んだ細胞もとどまり、新しい細胞が増えるだけ
死んだ細胞もとどまり、新しい細胞が増えるだけ

人の細胞では、古い細胞は新しい細胞に置き換わります。最もわかりやすいのは皮膚のターンオーバーでしょう。皮膚の最も外側の角質層の細胞は、古くなるとはがれ落ち、新しい細胞が下から出てきます(*8)。
人の骨も、古くなった細胞がはがれ落ち、内側から新しい細胞が出てきます。
人の細胞は古い細胞が新しい細胞に置き換わっているので、永遠に大きくなることはありません。そして人の古い細胞は、マクロファージという細胞に食べられてしまいます(*9)。

*7:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3500&key=&target=
*8:https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/41_hadaare/
*9:http://www.dying-code.jp/wp-content/uploads/2015/02/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E6%AD%BB%E3%81%AE%E7%A7%98%E5%AF%86.pdf

なぜ樹木だけ巨大になって、草は大きくならないのか

さて、ここまでの解説で次の2つの疑問が湧くのではないでしょうか。

●なぜ樹木だけ巨大になって、草は大きくならないのか
●巨大になる樹木はあるが、その樹木と同じ種類の樹木がすべて巨大になるわけではないのはなぜか

樹木も草も同じ植物で、細胞壁を持っています。なぜ巨大な草は存在しないのでしょうか。
また、すべてのクスノキが、蒲生八幡神社のクスノキなみに大きくなるわけではないのはなぜでしょうか。

樹木はリグニンで補強される

樹木が硬く草が柔らかいのは、細胞壁の違いです。
草の細胞壁はそれほど頑丈ではありません。それでも草の高さが1mくらいになっても立っていられるのは、水分のお陰です。十分に水分補給ができている草は、細胞が水分でパンパンになっているので、細胞の内側から細胞壁を支えることができます。しかし水不足に陥ると、細胞のなかの水分が減って細胞壁を押す力が小さくなるので、草はしおれてしまいます。

一方、樹木は、細胞壁が強いことに加えて、あとから「補強剤」が供給されます。樹木の細胞では、古くなるとリグニンという物質が細胞壁に注入されます(*10)。
樹木も最初から強固なわけではありません。人の膝ぐらいの高さだと、樹木といっても簡単に折り曲がってしまいます。それはリグニンが足りていないからです。

しかし、ひとたびリグニンで補強されると、樹木は死んだあとも強固なままでいられます(*11)。この「死んだあとも強固なまま」という性質はすさまじく、奈良県の法隆寺に使われている木材は、少なくとも1,000年は経過しています(*12、13)。
しかも、植物なのに腐っていません。リグニンに防腐効果もあります。

草の細胞壁にはリグニンが供給されないので、自分の体が大きくなったらそれを支えることができず、それで巨大化できないわけです。

*10:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4171
*11:http://www.miyazaki-u.ac.jp/agr/books/post-4.html
*12:https://www.horyuji.asia/entry5.html
*13:http://mori-hiroshimacity.genki365.net/gnkh07/pub/sheet.php?id=35664

樹木は攻撃にさらされ続けている

同じ種類の樹木でも、巨大化できるものとできないものがあるのは、それだけ厳しい環境に生きているからです。
樹木が生えている森は、実は生物にとって過酷な場所です。

日本人の平均寿命は、女性が87歳、男性が81歳です(*14)。世界最高齢が約120歳なので、日本人は大体、人間の最長寿命の68~73%ほど生きられることになります(*15)。
しかし発展途上国のなかには平均寿命が48歳という国もあり、国民は人間の最長寿命の40%しか生きられないことになります(*16)。
日本と発展途上国は、生活環境と経済環境が大きくことなります。
このように、寿命のポテンシャル(約120歳)と、実際の平準寿命の差は環境によって大きく変わってきます。

樹木は常に紫外線に当たり、ウイルスや細菌の攻撃に遭い、台風や寒さに見舞われています(*17)。そのため、多くの樹木は巨木になる前に、これらの攻撃に負けてしまいます。もちろん、人間による伐採は樹木にとって最大の危機の1つですが。
そのように考えると、巨木は相当運がよい樹木といえます。

*14:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62138840R30C20A7CR8000/
*15:https://hossakuraworld.com/africa/
*16:https://www.msf.or.jp/news/detail/photo_541.html
*17:http://bio-math10.biology.kyushu-u.ac.jp/oc2020/research-aoyagi/

何個も「臓器」をつくることができるから

何個も「臓器」をつくることができるから
何個も「臓器」をつくることができるから

樹木が1,000年以上も生きながらえることができるのは「臓器」を何個もつくることができるからです。

人間などの動物は、たった1つの心臓が壊れたら、そのほかの臓器や器官が健康でも死んでしまいます。肝臓も1つしかないのに、これを失ったら死んでしまいます。肺と腎臓は2つずつありますが、2つとも駄目になったらやはり死んでしまいます。
人間は、生存に欠かせない臓器の数が少ないので、死亡リスクが高い生物といえます。

一方の樹木は、生存に必要な枝も葉も花も、何個でもつくることができます。台風で大きな枝が折れても、幹さえ持ち応えることができれば再生できます。
人間の臓器と比較すると、いくらでも新品の枝、葉、花樹を用意できる樹木は、ほとんど不死身の体といえます。

まとめ~すごいパワーなのに巨木が少ない寂しさ

ここまで内容を箇条書きでまとめてみます。

●樹木が巨大になることがあるのは、死んだ細胞を使い続け、新しい細胞が増え続けるから
●樹木が巨大になることがあるのは、細胞壁をリグニンでガチガチに固めて強固にして、巨体を支えることができるから
●樹木の寿命が1,000年をゆうに超えることがあるのは、生存に必要な枝、葉、花を何個でもつくることができるから

樹木はこれだけのパワーによって大きくなるので、多くの人が、巨木に神が宿っていると考えるのは自然です。
また、樹木にはこれだけのパワーがあるのに、巨木が数えるほどしかないのは、人間の自然破壊のパワーの大きさを物語っているのではないでしょうか。

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