「植物を怒らせるな」毒を吐くし共食いを誘う恐い一面も

「植物を怒らせるな」毒を吐くし共食いを誘う恐い一面も

植物は、動物のような攻撃はしません。
しかし、植物に「ちょっかい」を出すと攻撃してくることがあります。ジャガイモの芽に毒があることは有名ですが、このような身近な野菜ですら「恐ろしい」攻撃力を持っています。
その他にも、キリンを退治する植物や、蛾の幼虫を共食いに誘う植物もあります。
植物どうしでコミュニケーションを取って連携して外敵から身を守ることもあります。
植物を怒らせないようにしましょう。

ジャガイモの毒の仕込み方が恐い

ジャガイモの芽には、ソラニンとチャコニンという毒が含まれています。
体重50kgの人がソラニンまたはチャコニンを150~300mg(0.15~0.3g)摂取すると、死ぬこともあります(*1)。そこまで大量に食べなくても、吐き気、下痢、腹痛、頭痛、めまいを起すことがあります。

*1:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/potato.html

緑色の部分も恐い

農林水産省は、ジャガイモの芽だけでなく、緑色になった皮の部分にも注意するよう呼びかけています(*1)。
収穫されたジャガイモは、しばらく光に当たると緑色になります。

農林水産省は、ジャガイモの芽だけでなく、緑色になった皮の部分にも注意するよう呼びかけています
農林水産省は、ジャガイモの芽だけでなく、緑色になった皮の部分にも注意するよう呼びかけています

出典:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/potato.html

安全なジャガイモにもソラニンとチャコニンは含まれていますが、その量は100g中、7.5mg(0.0075g)ほどです。ソラニンまたはチャコニンを50mg(0.05g)摂取すると症状が出るので、安全なジャガイモは、一度に667g(=(50mg÷7.5mg)×100g)以上食べなければ問題ありません。

しかし、緑色の部分には、100g中100mgものソラニンまたはチャコニンが含まれています。緑色の部分を50g食べただけで、ソラニンまたはチャコニンの量は症状が出る50mgに達します。
そのため、ジャガイモの緑色の部分やジャガイモの芽は、絶対に食べないようにしてください。

「子孫を残すことを邪魔する奴は許さない」と言っているよう

ジャガイモは、ビタミンやデンプンが豊富に含まれる優れた野菜です。ドイツはジャガイモを主食にしているほどです(*2)。
つまりジャガイモは「人に優しい」植物といえます。それなのになぜ、人に牙をむくことがあるのでしょうか。
その答えは、「芽と緑色の部分だけは守りたいから」です。

芽は、ジャガイモが成長するために必要な部分です。そしてジャガイモは、成長に必要な光を浴びたときに緑色になります。
芽も緑色の部分も、ジャガイモの子孫を残すのに重要な部位です。だからジャガイモは、芽と緑色の部分に「毒を仕込んだ」のです(*3)。
ジャガイモは「子孫を残すことを邪魔する奴は許さない」と言っているわけです。

*2:http://textview.jp/post/hobby/28382
*3:https://www.nhk.or.jp/radio/kodomoqmagazine/detail/20180828_04.html

アカシアは3つの対策でキリンを退治する

アカシアは3つの対策でキリンを退治する
アカシアは3つの対策でキリンを退治する

アフリカなどに生えているアカシアは防御に優れた植物で、長い棘(とげ)で身を守ります。それでも食べにくる動物に対しては、アカシアは10m以上に成長することで対抗しました。
それでも食べに来るのが、キリンです。
そこでアカシアは、3つの対策でキリンを退治することにしました(*4)。

*4:https://ddnavi.com/serial/551283/a/

対策1:まずい成分を出して食べにくくする

キリン対策の1つ目は、キリンに食べられると葉に「まずい」成分を出す方法です。まずいので、キリンはそれ以上食べなくなります(*5)。
まずい成分のことを、ジャスモン酸といい、アカシア以外の植物も持っています。
ジャスモン酸が発生するメカニズムを紹介します。

植物の葉が草食動物に齧(かじ)られると、葉のなかに植物ホルモンの一種であるシステミンが発生します。システミンは植物の「体内」の全体に巡り、細胞に作用します。

植物の細胞は、1つひとつが細胞壁で区切られていて、細胞壁に内側には細胞膜が張られています。細胞膜に、システミンの受容体があります。
受容体とは、「受け入れるモノ」を受け入れたときに、新たな作用を引き起こす物質です。システミンの受容体は、システミンを受け入れます。
受容体がシステミンを受け入れると(結合すると)、ジャスモン酸が発生します。ジャスモン酸も植物ホルモンの一種です。

*5:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=23&key=&target=

対策2:タンパク質を分解できなくさせる

ジャスモン酸は「まずい」だけでなく、ジャスモン酸を食べた動物に健康被害を与えます。

ジャスモン酸は、タンパク質分解酵素阻害物質をつくります(*6)。
タンパク質を分解する酵素の働きが阻害されると、動物は困ります。なぜなら動物は、タンパク質を食べて、タンパク質を分解して(消化・吸収して)生きているからです。
そのため動物は、タンパク質の分解を阻害する植物は食べないようになります。なぜなら、タンパク質分解酵素阻害物質を摂ってしまうと、タンパク質をいくら食べて栄養不足の状態に陥るからです。
タンパク質分解酵素阻害物質をつくることが、アカシアのキリン対策その2になります。

*6:https://www.youtube.com/watch?v=NfO0i-Ev-W8

対策3:近くの別のアカシアに危険を知らせる

アカシアにはコミュニケーションを取る能力があるのではないか、という仮説があります。これを「植物が話す仮説(talking plant hypothesis)」といいます(*5)。

アカシアがキリンに食べられると、ジャスモン酸をつくることは先ほど紹介したとおりです。ジャスモン酸はさらに、揮発性化合物という物質をつくり、これがアカシアの体内から外に向かって放出されることで、近くの別のアカシアが危険を察知して、やはりジャスモン酸をつくるわけです。この作用により、キリンは少しアカシアを食べただけで、そのアカシアだけでなく、周辺のすべてのアカシアを食べられなくなります。

これはまるで、キリンに食べられたアカシアが、仲間のアカシアに「キリンが来た! まずい成分のジャスモン酸を出して、キリンに食べられないようにしろ!」と警告しているようです。それで「植物が話す」と考えられているわけです。

「植物が話す仮説」はまだ仮説の段階ですが、それでもほぼ間違いない説といえるまで研究が進んでいます。それでも「仮」が取れないのは「植物の鼻」がみつからないからです。
あるアカシアが出す揮発性化合物を、近くの別のアカシアが「嗅ぎ取る」のであれば、アカシアに「鼻」のような器官がなければならないはずですが、それはまだみつかっていません。
ちなみに、植物どうしは地下で「根っこ」で会話しているのではないか、という仮説もあります(*5)。

トマトは蛾の幼虫を共食いさせて自分の身を守る

トマトは蛾の幼虫を共食いさせて自分の身を守る
トマトは蛾の幼虫を共食いさせて自分の身を守る

これから紹介する2つの研究結果を知ると「あのトマトにこれほどの攻撃力があったとは」と驚くと思います。
2つの研究をしたのは、アメリカのウィスコンシン大学マディソン校の動物学研究者のジョン・オロック氏です。

驚きのトマト1:カタツムリの気配を察知して防御する

カタツムリはトマトを食べてしまいます。それでトマトは、カタツムリに食べられると、体内にリポキシゲナーゼという酵素を発生させ、自分自身を「まずく」させます。
リポキシゲナーゼは、人が食べても「まずく」感じます。大豆の加工食品をつくるときも、リポキシゲナーゼの除去が課題になっています(*7)。

ただこのメカニズムは、アカシアがジャスモン酸をつくって自らを「まずく」するのと似ているので、驚きはないと思います。

オロック氏は、カタツムリが這うときに出す粘液を、トマトの苗木の近くの土壌に注入しました。するとそのトマトの体内のリポキシゲナーゼが増加したのです。
トマトは、実際にカタツムリに襲われたわけではないのに、カタツムリの気配を感じただけで防御策を取ったことになります(*8)。

*7:http://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/shokuhin_news/s_no10_04.pdf
*8:http://www.nikkei-science.com/?p=56316

驚きのトマト2:食べ物と呼べないくらいまずくする

オロック氏は別の実験で、次のことを試しました(*9)。

●トマトの苗木の近くに、蛾の幼虫を2匹置く
●トマトの苗木にジャスモン酸を散布する

この結果、2匹の蛾の幼虫はトマトを食べずに、共食いを始めました。
実験ではジャスモン酸をトマトの苗木に散布しましたが、トマトは自身でジャスモン酸を出すことができます。
この実験結果により、蛾の幼虫が「ジャスモン酸が増えた『まずい』トマトを食べるくらいなら、仲間を食べたほうがまし」と判断したことがわかります。

動物は原則、共食いはしません。共食いは、自分たちの種を自分たちの手で絶やすことになるからです。しかし、その他に栄養を摂る手段がないときは、自分が生きるために共食いをします(*10)。
「もうそれしかない」とき、自分の命を守るために共食いをするわけです。つまり、ジャスモン酸が増えたトマトの「まずさ」は、蛾の幼虫にとって、大好物のトマトを食べ物とみなせないほどの「ありえないまずさ」であるといえます。

オロック氏は、植物を食べる蛾の幼虫の成長スピードと、共食いをした蛾の幼虫の成長スピードを比べて、両者に差がないことも確認しています。
蛾の幼虫にとっては、「ありえないまずさ」のトマトを食べずに共食いをすることは、合理的な行為でもあるわけです。

*9:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/071200264/?P=1
*10:https://sites.google.com/site/teamnagata2013/home/3

まとめ~植物の武器は化学

植物の武器は化学です(*11)。植物は動くことができません。しかし、自分の体内の成分や物質を化学変化させることで、動かずして動物を攻撃したり、動物の攻撃から自らを守ったりしたりしています。
動くことでしか攻撃力と防御力を生み出せない動物と比べると、植物のほうが賢いような気がします。
動物が生き続けるには、植物を食べなければならないので、植物を「怒らせず」「まずくさせず」利用していきましょう。

*11:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=23&key=&target=

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