森は植物にとっての戦場~最終チャンピオンは「木」だった

森は植物にとっての戦場~最終チャンピオンは「木」だった

多くの人が、森に行きます。それは、日常という戦場から離れて、森という安らぎの空間で癒されたいからでしょう。
しかし、植物たちにとっては、森こそが戦場です。植物は実はとても凶暴で、隙あらば別の植物を殺そうとします。植物どうしの最も激しい戦いの場が森です。
森が平和にみえるのは、森で行われている植物たちの戦いがとてもゆっくりだからです。

立派な森はクライマックス状態

先に結論を紹介します。
森のなかの植物のチャンピオンは「木」です。
森にはたくさんの植物が生えていますが、最終的には木が森を支配し、この状態こそ日本の自然界のクライマックスになります。

最終的かつ究極の状態

森は、外的な攻撃を受けない限り死にません。つまり、立派な木々が生い茂る森の最終形態は、ずっと続きます。
森を壊す外的な攻撃には台風や噴火などがありますが、最も大きな攻撃は人による木々の伐採です。
ところが森は、一度壊されても必ず復活します。人が木々を伐採して森を完全に壊しても、人がその土地を放棄すればやがて森ができます。
森は、森ができる条件が整っている土地であれば、必ず森になります。

「遷移」こそ森の植物たちの戦い

「千年の森」といった言葉があるように、森は100年単位や1,000年単位の時間を経てつくられます。
しかし、森の成長は、人の成長とはまったく異なります。人は、たった1個の細胞が何十兆にも増え、そして死にます。人は、人として生まれ、人として成長し、人として死にます。
一方の森は、植物Aが植物Bに倒され、Bが植物Cに倒され、Cが植物Dに倒され――といった営みを続けて成立します。森ができる土地では、時代ごとにチャンピオンになる植物が入れ替わります。
また、動物も植物も死にますが、森は原則死にません。「森は生きている」とよくいいますが、その生き方は動物や植物の生き方とは全然違います。

将来的に森になる土地でチャンピオンになる植物が次々変わることを「遷移(せんい)」といいます。
遷移の正しい定義は次のようになります。

●遷移:植物群落を構成する種や個体数が時間ごとに変わっていくこと(*1)。

*1:https://www.shinrin-ringyou.com/shinrin_seitai/seni.php

裸地から始まる

森のスタート地点は、植物がまったくない裸地です。例えば、火山が噴火して溶岩が流れると、その土地の植物は焼き尽くされるので裸地になります。岩石がごろごろしている裸地もあります。
森のチャンピオンは木であると紹介しましたが、裸地に木の種をまいたり苗木を植えたりしても育ちません。なぜなら裸地には水も養分もないからです。裸地に雨が降っても土壌がないため水は流れてしまいます。裸地には、木どころかいわゆる雑草すら生えません。
土壌は森にとって重要な要素になるので、あとで詳しく解説します。

裸地は遷移を繰り返さないと森になりません。木は、遷移がある程度繰り返された土地にやってきて、チャンピオンをかっさらうことになります。
遷移こそ、森で植物たちが繰り広げる戦争といえます。

最初の遷移:初代チャンピオンは地衣類とコケ植物

仮に裸地に草木の種が飛んできても成長しません。裸地には土壌がないからです。
土壌は、岩石や砂や粘土などに、動物や植物の遺骸が加わることでできあがります(*2)。したがって、植物がないと裸地は土壌になりません。植物がないと動物もあまりよってこないので、動物の遺骸による土壌づくりも進みません。

裸地が、草木を養うことができる土壌に変わるには「切っ掛け」が必要になります。地衣類やコケ植物が、その切っ掛けになります。

地衣類は、菌類が藻類と共生して1つの体をつくっている生き物です。「菌だけ」でも「藻だけ」でもないので、地衣類は植物ではないとされています(*3)。
地衣類の菌類は、胞子で増えます。
地衣類の藻類は、単細胞で地球上に30億年にわたって生存しています。一般的な植物は5億年ほどしか生存していないので、藻類の生命力の強さは別格といえます。藻類は温泉のなかでも、200メートルの深海でも生きることができます(*4)。
それで地衣類は裸地でも生存できます。

コケ植物は最も原始的な植物で、維管束を持っていない、という特徴があります(*5、6)。維管束は、根、茎、葉を貫いている管で、水分や養分を運んでいます(*7)。維管束は動物の血管に相当します。葉の筋である葉脈は、葉の維管束です。
維管束を持つ維管束植物は、根から水分や養分を吸い取らなければならないので、水分も養分もない裸地では生きていけません。
しかしコケ植物は維管束を持たず、そのため維管束に依存しないで生きていくことができます。つまりコケ植物は土壌に依存しないでよいので、裸地で生きることができます。

遷移の初代チャンピオンは、地衣類とコケ植物になります。

*2:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti4.pdf
*3:https://www.chiba-muse.or.jp/NATURAL/special/chii_nani/chii-index.html
*4:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20160330post-262.html
*5:https://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/bryophyte.html
*6:https://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001228282366178&p=2
*7:https://kotobank.jp/word/%E7%B6%AD%E7%AE%A1%E6%9D%9F-30084

先駆種の役割は、窒素を植物が使いやすいようにすること

裸地に地衣類とコケ植物がすみつくまでに4、5年かかります(*8)。
地衣類とコケ植物の遺骸が、土壌のベースになります。土壌のベースができあがると、草木の種が飛んでくれば育つ可能性があります。ただ、育たない可能性もあります。
草木の種が成長するかどうかは、土壌のベースに窒素が含まれるかどうかにかかってきます。

空気中の窒素は使えない。ではどうするか

窒素は、植物が必要とする養分のなかでも特に重要な物質です。窒素は空気中に大量に含まれていますが、植物は動物のように口から空気を吸うことができないので、植物は空気中の窒素を使うことができません。

そこで活躍するのが、ヤシャブシという植物です。ヤシャブシの根には放線菌という菌がすみついていて、この菌が空気中の窒素を吸収します。ヤシャブシは菌から窒素をもらうことができるので、窒素がない土壌でも生きることができます(*9)。
そしてヤシャブシの種はとても小さいので、風に飛ばされやすい特徴があります。

ヤシャブシが、地衣類とコケ植物が生息している土地にやってきて成長して枯れると、それが「植物の遺骸」になります。そうです、土壌の材料になる植物の遺骸です。
ヤシャブシは人が土地を肥沃にするときにも使われます(*10)。
ヤシャブシは、遷移が始まったばかりの土地に現れることから、先駆種と呼ばれます。

*8:https://www.shinrin-ringyou.com/shinrin_seitai/seni.php
*9:https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/seibutsukiso/archive/resume031.html
*10:http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/betulaceae/oobayasyabusi/oobayasyabusi.htm

草が生えて土壌改良が進む

土壌ができると1年生の植物である1年生草本が生存できるようになります。1年生草本とは、種から成長して花ができて1年以内に種をつくる植物のことです。
続いて、ススキやイタドリ、チガヤといった多年生草本が生えてきます。多年生草本は、地表の茎や葉が枯れても、翌年また、地下で生きている根や地下茎や球根から茎や葉が生えてきます。

多年生草本の根が岩石を砕き、大量の化学変化を生む

多年生草本の根はさらに、地下の岩石を使って土壌を「さらによい土壌」に変えていきます。
根が成長すると土中の岩石が圧迫され、砕けます。岩石が砕けると、岩石の表面積が増えます。例えば、球体を真ん中で2つに割ると、丸い部分の表面積は変わりませんが、平らな断面積の分だけ表面積が増えます。
表面積が増えた岩石は、二酸化炭素や酸化による化学的な変化が起きやすくなり、有機物と混ざって土壌の養分となります(*11)。
多年生草本には、土壌改良を促進する力があるわけです。

*11:http://www.cm.nitech.ac.jp/cho/earth_science/Lesson-09.pdf

木たちの熾烈な戦いが始まり、そして終わる

遷移が残酷なのは、ここからです。
1年生草本や多年生草本は、自分たちで死んで土壌の養分となり、自分たちの根で岩石を砕いてさらに土壌改良を行います。そうやって裸地を楽園にしたのに、それが奪われてしまいます。
最初の土地泥棒は、「陽樹の低木」です。

最初の土地泥棒である陽樹の低木が、陽樹の高木に倒されるまで

陽樹とは光を多く必要とする木のことで、光をそれほど必要としない木のことを陰樹といいます。

陽樹の低木は成長が早いので、できたばかりの良質な土壌を真っ先に奪い取ることができます。陽樹の低木には、ヤシャブシやヤマツツジ、ハコネウツギなどがあります。

陽樹の低木は高木になることができません。そのため、遅れて成長する陽樹の高木に勢力を奪われてしまいます。
なぜなら、陽樹の高木が成長すると、太陽の光を独り占めにされるからです。陽樹の高木が大きくなったり、その葉が生い茂ったりすると、下に光が届かず、下の植物は光合成を行うことができず枯れてしまいます。光合成は、光エネルギーを使って二酸化炭素と水を成長エネルギーに変える行為です。
陽樹の高木にはアカマツやコナラなどがあります。

クライマックスは突然に

太陽の光を存分に浴びることができる陽樹の高木なら、森のチャンピオンであり続けることができそうですが、そうはいきません。遷移はまだ続きます。
陽樹の高木は、自分は光を浴びて元気になりますが、地面近くの林床の光を奪うので、自分の子供たちが成長できません。
そのため、陽樹の高木の足元で、光をそれほど浴びなくても成長できる陰樹の勢力が増していきます。
陰樹が成長すると、陽樹の高木と陰樹の高木が森のチャンピオンになりますが、陽樹の高木が寿命を迎えると、陽樹の後輩は育っていないので、森のなかは次第に陰樹の高木だらけになります。

これが森のクライマックス状態で、これ以上遷移は起きません。この陰樹の高木が生えている状態を「極相」といいます。
陰樹にはブナ、シイ、カシ、ヒバ、エゾマツなどがあります。ブナの森やエゾマツの森は、森の最終形である極相です。

他の植物は木の「おこぼれ」で生きていく

もちろん森には、陰樹の高木以外の植物も存在します。森は広いので、陰樹だけではすべてを制圧できず、それでその他の植物が生きる余地が生まれます。
また、陰樹の高木が寿命を迎えて倒れると、その周辺の土地に光が差すので「ミニ遷移」といえるような現象が起きます。

森と戦わなければならないから林業は難しい

日本の森林面積は2,510万ヘクタールで、国土の66%を占めます(*12)。日本の森林割合の高さは世界有数です。ところが日本の木材自給率は3割にすぎません(*13)。
日本には大量の木があるのに、大量に輸入しています。それは、森が植物にとっての戦場だからです。木材になり得る木でも森では生きにくく、木を生産することは手間とコストと時間がかかります。

*12:https://www.shinrin-ringyou.com/forest_japan/menseki_japan.php
*13:https://www.shinrin-ringyou.com/data/mokuzai_kyoukyu.php

スギやヒノキでも簡単にはチャンピオンになれない

木材としてよく使われる木に、スギとヒノキがあります。スギは陽樹または半陰樹に分類されます、ヒノキは陰樹です(*14、15)。
つまりスギやヒノキは、森のなかでは最強の部類に入ります。それでも厳しい戦いに勝ち残らなければ、木材に使える高木や大木になることができません。

*14:http://kawasakimidori.main.jp/webzukan/sugi.html
*15:https://kotobank.jp/word/%E9%99%B0%E6%A8%B9-32901

10年に及ぶ草刈りや50年以上の世話が必要

スギを商品価値のある木材として生産するには、人の手で苗木を森のなかに植えていかなければなりません(*16)。これを植林といいます。「森のなかの土地は栄養満点だから、スギの種をまけばそれで済みそう」な気がしますが、人工林をつくるにはそれでは駄目なのです。

苗木は、苗木どうしで生存競争させなければならないので、密集して植えます。
苗木を植えてから10年くらいは、毎年草刈りをしなければなりません。そうしないと、苗木より背が高い草木に光を奪われてしまうからです。陰樹や半陰樹であっても、光が多いほうが成長できます。
スギがある程度成長すれば草刈りはしなくて済みますが、今度はツルが幹にまきつくので、これを刈り取ります。

さらに成長すると、スギの幹の下のほうの枝を伐採します。これを枝打ちといい、これをしないと枯れた枝から害虫が入ってきて、幹を腐らせてしまいます。
20~30年が経過すると、苗木を密集して植えたせいで、スギ林が込み合ってきて成長しにくくなります。それで間伐を行います。せっかく20~30年育てたスギでも、一部は間引きしなければなりません。
間伐をすると、残ったスギはしっかり根を張るようになり、台風や大雪に強い木になります。

スギが木材になるには50年かかります。高級スギ木材をつくるために、100年育てることもあります。
50~100年もの間、林業の人たちは、スギを森の脅威から守り続けなければなりません。林業とは、森との戦いです。「それならば安い輸入材を購入しよう」となり、森林大国・日本が木材輸入大国になっています。

*16:https://www.shinrin-ringyou.com/ringyou/ringyou_work.php

まとめ~雑草と巨木を見る目が変わる

農家や林業家だけでなく、ガーデニングをしている人や家庭菜園をしている人でも、植物を育てるには、雑草刈りの大変さと重要性を知っていると思います。
雑草刈りが大変なのは当然で、何しろ雑草には、森をつくるという壮大なミッションが与えられているのですから。

大木のことを神木と呼び、そこに神が宿っていると考えるのも、納得できます。大木は、植物たちが繰り広げた激しい戦いを勝ち抜いたので、多くの人が「神がかりな力が働いた」と考えても不思議はありません。
遷移の仕組みを知ると、雑草と巨木を見る目が変わってくると思います。

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