「花は美しい」ことをエビデンスを示して説明してみる

花は美しい――この事実に異論をはさむ人はいないでしょう。
しかし誰かに「本当に花は美しいといえるのか」と聞かれたら、何と答えたらよいでしょうか。
「それでも花は美しい」で押し通してもよいのですが、少し逃げているような気もします。
そこでこの記事では、エビデンス(科学的根拠)を示して、花と美が密接に関係していることを証明してみます。

花には邪魔があっても動じない美がある

花は絶対的な美を持っているから美しいといえる、という説明は一定の説得力があります。なぜなら、絶対的な価値は確かに存在するからです。例えば、寿司はおいしい、赤ちゃんはかわいい、東京スカイツリーの展望台からの風景は見事、といった価値観は世界に通用します。

花の美が絶対的な価値の1つであることは、バラとトリカブトが証明しています。
バラには恐ろしい棘(とげ)があり、トリカブトにはさらに恐ろしい猛毒が備わっています。これだけ決定的な欠点を持ちながら、多くの人がバラとトリカブトを美しいといいます。
美しさが強すぎて、欠点を隠してしまっています。その美しさを絶対的なものとみなしてもよいはずなので、花は美しいといえます。

薔薇とトリカブトは棘と毒があっても美しい
薔薇とトリカブトは棘と毒があっても美しい

花の美は男女共通

花は男女に共通した美である点も特徴的です。
例えば、男性が女性に花を贈ったとします。
このときの男性は、1)花を持つとこの女性の美しさがより際立つ、と考えたり、2)この女性は花で称えられるべきだ、と考えたりしているはずです。
女性のほうは、3)花を贈られる人として認められて嬉しい、と思ったり、4)美しいもの囲まれて嬉しい、と思ったりするはずです。
1)~4)から、男女ともに花の美を重視していることがわかります。
また、花は葬儀に大量に添えられますが、そのときの花の量は、故人の性別や年代によって変わることはありません。

性別や年代に左右されない花の美は、やはり絶対的といえます。

女性が美とするものと男性が美とするものは普通は異なる
女性が美とするものと男性が美とするものは普通は異なる

花の美の価値に男女差がない特徴は、とても特殊です。
例えば、エルメスのバッグなら、美しいという人と、単なる袋じゃないかという人がいます。エルメスを美しいという人の多くは女性で、単なる袋とみなす人の多くは男性です。
また、フェラーリなら、美しい車だという人と、単なる狭い車じゃないかという人がいます。フェラーリを美しいという人の多くは男性で、単なる狭い不便な車とみるのは多くは女性です。
男女の両方から美しいと認められている花は、エルメスやフェラーリが持つ美よりも強いといえそうです。

花には時間も空間も超えた美がある

イスラエルのハイファ大学の考古学者、ダニエル・ナデル氏は2013年に、同国北部のカルメル山の洞窟で、12,000年前の墓地をみつけました。その墓地には花の痕跡がありました(*1)。

12,000年前の粋
12,000年前の粋

墓は4基あり、すべてに花が飾られていました。遺体は2つあり、成人男性と性別不明の若い人であることがわかりました。
彼らは、15,000~11,600年前にイスラエルやヨルダンなどで栄えたナトゥーフ文化の人たちで、このころ定住しない狩猟採集生活から、定住生活に移行したばかりであることがわかっています。墓をつくって埋葬する風習も、定住生活によって生まれたと考えられています。

添えられていたのは、ピンク色の花とラベンダー色の花で、墓の底面に複数本並べられていました。そのうえに遺体がのっていました。
墓は、泥の板で覆われていたので、これらの花が小動物によって墓のなかに持ち込まれた可能性は低いとみられています。

墓を発見したナデル氏は、ナトゥーフ文化の人たちが、外見と香りのよさから花を死者への捧げものに選んだとみています。
そしてナデル氏は、この4つの墓が、現在確認できている、花が添えられた最古の墓とみています。

現代でも葬式で花を添えますが、それは、儀式を美しくすることで死者の霊が鎮まると考えるからです(*2)。死者に美を捧げる風習は、12,000年前から現在まで綿々と続いてきたことになります。
期間の長さもさることながら、イスラエルから日本まで空間を超えた風習であることも驚きです。

人が亡くなったとき、周囲の人たちが「葬式をしてあげよう。どうせなら美しい儀式にしてあげよう。それなら花が必要だ」と、昔の人も今の人も、こちらの人もあちらの人も同じように考えたのは、花の美が本物だからといえそうです。

*1:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8124/
*2:https://www.kazoku24.com/column/article/column012/

状況証拠に加えて物的証拠を提示するための考察

ここまで、1)ネガティブな要素があっても花の美が損なわれないから、2)男女とも花を美しいと思うから、3)12,000年前から花は美しいものとして扱われてきたから、「花は美しいといえる」と証明してみました。
3つもそろえば花の美しさは十分証明できたといえますが、ただ、「それらはすべて状況証拠にすぎない」と反論されるかもしれません。
そこで、花の美しさの物的証拠も集めてみました。

花の機能とは

物的証拠を示す前に、そもそも花とはどのような物質なのかについて解説します。
花を科学的、生物学的に定義すると、「繁殖と生存を確実にするための植物のツール」となります(*3)。
植物が繁殖するには、雄蕊(おしべ)の花粉を雌蕊(めしべ)に付着させる受粉が必要になります(*4)。しかし植物は自らの意思で動くことができないので、誰かに花粉を動かしてもらわなければなりません。その誰かは、自然界では昆虫や鳥などになります。

そこで植物は、受粉を手伝ってくれる昆虫や鳥に、対価として蜜を与えるわけですが、他の植物も蜜を使って昆虫や鳥を誘っています。
そうなると植物は、蜜以外のもので差別化しなければなりません。
それが花の形や色になります。

例えば、ショートケーキで有名な菓子店Aの隣に、菓子店Bが開業し同じクオリティのショートケーキを売り始めたとします。菓子店Aの売上高は、このままでは半減してしまいます。このとき菓子店Aは、看板を大きくしたり、店内を改装したりすれば、客をつなぎとめることができます。

花が目立つ形と色をしているのは、自分のところに近づいてきてくれる昆虫や鳥を増やすためと考えられています。

*3:https://www.mie-u.ac.jp/R-navi/column/cate003/TsukadaMorio.html
*4:https://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/self.html

ミツバチは白・青・黄が好き、鳥は赤が好き

三重大学の生物資源学研究科の塚田森生准教授によると、植物の受粉を手助けする動物には好みの色があります(*3)。

●ミツバチは白または青または黄の花が好き
●鳥は赤くて大きな花が好き
●コウモリは白くて強い香りの花が好き

ミツバチに受粉を手伝ってもらいたい植物は、自分の花を、白または青または黄色にしていかなければなりません。
もしくは、ミツバチが多い地域にある植物は、白または青または黄色の花を持っているほうが生存しやすくなります。
花が色を持ち、しかもその色の種類が豊富なのは、生存に役立つからです。

花はどのように色をつくっているのか

そもそも色とは、光の反射の結果です(*5)。太陽の光は通常は無色透明ですが、実は赤い光と緑の光と青の光の組み合わせで構成されています。そのため、3色の光を調整すれば自由自在にいろいろな色の光をつくることができます。

赤いバラの花びらが赤く見えるのは、太陽の光がバラの花びらに当たり、赤い光だけを反射しているからです。太陽の光のなかの緑の光と青の光は、バラの花びらが吸収してしまうので反射されず、「赤いバラを緑と認識する」ことも「赤いバラを青と認識する」こともありません。

花の色は、色素によってつくられます。例えば黄色い花には、カロテノイド、ベタレイン、フラボノイドという色素が多く含まれ、黄色くしています(*6)。青い花にはデルフィニジンという色素が、赤い花にはペラルゴニジンやシアニジンという色素が含まれています(*7、8)。
色素以外にも、花びらの細胞のpHや金属イオンによっても色が変わってきます。

花の色は、植物自体の進化でつくりますが、人工的に交配させたり遺伝子を組み替えたりして花の色を変えることもできます。
2004年に世界で初めて、サントリーが青いバラをつくることに成功しました(*9)。それまで人工的に青いバラをつくることは不可能とされていました。それは、バラには青色色素をつくる遺伝子がなかったからです。サントリーは他の植物の遺伝子を利用して、青いバラをつくりました。

*5:https://global.canon/ja/technology/kids/mystery/m_04_01.html
*6:http://www.naro.affrc.go.jp/archive/flower/kiso/color_mechanism/contents/yellow.html
*7:http://www.naro.affrc.go.jp/archive/flower/kiso/color_mechanism/contents/blue.html
*8:https://www.suntory.co.jp/sic/research/s_bluerose/secret/
*9:https://www.suntory.co.jp/sic/research/s_bluerose/

花の複雑な形はどのように生まれたのか

花の魅力は色だけではありません。複雑なカーブをいくつも使って描かれる形も、花の美を高めています。
花の形にバリエーションが豊富なのも、受粉の事情です。

鳥に受粉させる花のことを鳥媒花(ちょうばいか)といいます。鳥媒花は、花びらなどが堅い特徴があります(*10)。それは、昆虫より体重が重い鳥が花にとまっても壊れないようにするためです。鳥媒花には、ツバキ、サザンカ、ウメ、アロエなどがあります。

花は、受け入れたい動物が入りやすい形にならなければならない一方で、受け入れたくない動物が侵入しにくい形にしなければなりません。

ハチドリを誘い蜂を拒絶するサルビアの絶妙な形
ハチドリを誘い蜂を拒絶するサルビアの絶妙な形

サルビアという花は、深い花筒(はなづつ)を持っています(*11)。深い花筒とは、花の形が細長いという意味です。
サルビアは、ハチドリには蜜を吸わせたいが、ハチには蜜を吸わせたくないので、花筒を深くしました。ハチドリはホバリングしながら空中にとどまり、細長い嘴(くちばし)でサルビアの花筒の奥の蜜を吸います。ハチは細長い嘴を持っていないので、サルビアの蜜を吸うことはできません。

また、ツリフネソウという花は、マルハナバチというハチだけが蜜を吸えるような形をしています(*12)。
ツツジやユリは、アゲハチョウが吸いやすい形をしていて、ヨルガオは蛾が吸いやすい形をしています。
それぞれの花が、自分が好む動物に合わせてそれぞれで形を変えてきたので、さまざまな形をした花が存在するわけです。

*10:https://kotobank.jp/word/%E9%B3%A5%E5%AA%92%E8%8A%B1-98144
*11:http://salvia.la.coocan.jp/gardening/my_gardening_35.html
*12:https://manabi.benesse.ne.jp/ecostudy/file01/detail03.html

仮説:花が美しいのは、カラフルで形が複雑だから

ここまでの考察から、次のような仮説を立ててみました。

●花が美しいといえるのは、花がカラフルで形が複雑だから

もし人が、カラフルかつ複雑な形状の物体に心を奪われる性質を持っていれば、その両方の性質を持つ花は美しいといえます。
この仮説を検証していきましょう。

色は人の心を動かすから、花は美しい

本のデザイン会社「株式会社木元省美堂」(本社・東京都文京区)は、人に与える印象は色でコントロールできる、と考えています(*13、14)。
同社は、色が次のようなイメージを持つことに着目して、デザインに活かしています。

●白:純粋、清潔、正義、虚無
●グレー:落ち着き、真面目、迷い
●黒:高級感、重厚感、恐怖、死
●赤:情熱、活力、暴力、警戒
●橙(だいだい):喜び、暖かい
●黄:愉快、無邪気、注意
●緑:安らぎ、健康、やさしさ
●青:知的、信頼、悲哀、孤独
●紫:上品、神秘、不安
●ピンク:かわいい、幸福

ここで注目したいのは、1つの色にポジティブな印象もネガティブな印象も両方があることです。
白は純粋ですが虚無を表し、黒には高級感がありますが死を連想させます。青は、知的ですが孤独も表現します。
このことから色には、人の感情を動かす力があることがわかります。
ある物体が多くの色を持っていれば、その物体はいかようにも人の感情を動かすことができることになります。

美しさを感じる美意識は、感情移入によって発生するとされています(*15)。美しいものを見たときに「心を奪われた」と言うように、美しさを持つ物体には感情が移ります。
花は多くの色を持っているので、いかようにも人の感情を動かすことができるので、美意識を発生させることもできます。
花が美しいのは、いろいろな色を持つからです。

これで、カラフルさが花の美を生んでいることが証明できました。

*13:https://kimoto-sbd.co.jp/company/outline/
*14:https://kimoto-sbd.co.jp/tsutatsukulab/2018/01/21771/
*15:https://kotobank.jp/word/%E7%BE%8E%E7%9A%84%E6%84%9F%E6%83%85-120264

形は人の心を動かすから、花は美しい

続いて、花の複雑な形が美を生んでいることを証明していきます。

形に美が宿ることは有名で、一部の彫刻や壺や建築物は、意図的に美しさを求めて形づくられ、そして多くの人から「美しい」と評されています。
その一方で、醜い形も存在します。例えば、素人がつくった壺は、多くの人から美しくないと評価されてしまいます。

では、形の美または形の醜は、多数決で決まるのでしょうか。例えば、10人に四角と三角を見てもらい、四角のほうが三角より美しいと主張する人が8人いれば、四角のほうが美しいと決まるのでしょうか。
もちろん、そうはなりません。

美しい形と醜い形を決める1つの基準は、自然の形にあるようです(*16)。
人には「自然界には美しいものが多数存在している」という直感があります。雪の結晶、蛇行した川の流れ、夜空の星の配置、巻貝のカーブ、そして花の形――これらは人に「美しい」と感じさせます。

自然の形を美しいと感じるのは、人には自然美を感じる力があるからです(*17)。自然美は芸術美とは異なる美であると考えられています。
自然の物体である花が複雑な形をつくればつくるほど、人はどんどん魅了されます。

*16:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/360768/102000012/?P=1
*17:https://kotobank.jp/word/%E7%BE%8E-118751

美しくない花の存在からわかる「花の美しい率の高さ」

ラフレシアの中央の穴はブラックホールみたい
ラフレシアの中央の穴はブラックホールみたい

花の形や色がすべて美しいわけではありません。
マレー半島に咲く、ラフレシアという花はとても不気味ななりをしています。もちろんこれを美しいという人もいると思いますが、一般的かつ直感的には、この花からよい感情を湧き起こすことは難しいでしょう。
しかもラフレシアは、死肉や糞にたかるハエを受粉に使うために、清掃が行き届いていないトイレのような臭いを発します。バラは、美しさによって棘のネガティブ要素を打ち消しましたが、ラフレシアはそれができません。

ラフレシアの存在から、人が無条件に「花は美しい」と感じるわけではないことがわかります。人は「花だから美しい」と感じるのではなく、「美しい花」に対してのみ、美しいと評価しています。

花の世界を構成する1本1本の花たちの「美しい率」は、恐ろしく高いことがわかります。ラフレシアなどの醜い花は少数派にすぎず、ほとんどの花は、雑草のなかの花でさえ、美しさを持っています。
例えば、木の世界の場合、森のなかを歩いていても、心を打たれるような美しい木に出会えることはまれです。建物の世界も同様に、ビル街や住宅街を歩いて「おっ」と思える建物は多くありません。

まとめ~美を説明できるくらい美しい

昆虫や鳥に気持ちよく花粉を運んでもらうために色と形を工夫しただけなのに、花は人の心を打ちます。花が美しい理由を、理詰めで探ってみました。
美を定義することは難しく、哲学者たちもそれに挑んできましたが成功しているとはいえません。美は、それを見た瞬間にはっきりと意識できるのに、哲学者たちの美の定義は一般人にはちんぷんかんぷんです(*18)。
花を使えば、美を簡単に説明することができます。「花を見て美しいって思うでしょ。それが美です」と。
花は、美の説明に使えるほど美しい、ともいえます。

*18:https://www.msz.co.jp/book/detail/05041/

森は植物にとっての戦場~最終チャンピオンは「木」だった

多くの人が、森に行きます。それは、日常という戦場から離れて、森という安らぎの空間で癒されたいからでしょう。
しかし、植物たちにとっては、森こそが戦場です。植物は実はとても凶暴で、隙あらば別の植物を殺そうとします。植物どうしの最も激しい戦いの場が森です。
森が平和にみえるのは、森で行われている植物たちの戦いがとてもゆっくりだからです。

立派な森はクライマックス状態

先に結論を紹介します。
森のなかの植物のチャンピオンは「木」です。
森にはたくさんの植物が生えていますが、最終的には木が森を支配し、この状態こそ日本の自然界のクライマックスになります。

最終的かつ究極の状態

森は、外的な攻撃を受けない限り死にません。つまり、立派な木々が生い茂る森の最終形態は、ずっと続きます。
森を壊す外的な攻撃には台風や噴火などがありますが、最も大きな攻撃は人による木々の伐採です。
ところが森は、一度壊されても必ず復活します。人が木々を伐採して森を完全に壊しても、人がその土地を放棄すればやがて森ができます。
森は、森ができる条件が整っている土地であれば、必ず森になります。

「遷移」こそ森の植物たちの戦い

「千年の森」といった言葉があるように、森は100年単位や1,000年単位の時間を経てつくられます。
しかし、森の成長は、人の成長とはまったく異なります。人は、たった1個の細胞が何十兆にも増え、そして死にます。人は、人として生まれ、人として成長し、人として死にます。
一方の森は、植物Aが植物Bに倒され、Bが植物Cに倒され、Cが植物Dに倒され――といった営みを続けて成立します。森ができる土地では、時代ごとにチャンピオンになる植物が入れ替わります。
また、動物も植物も死にますが、森は原則死にません。「森は生きている」とよくいいますが、その生き方は動物や植物の生き方とは全然違います。

将来的に森になる土地でチャンピオンになる植物が次々変わることを「遷移(せんい)」といいます。
遷移の正しい定義は次のようになります。

●遷移:植物群落を構成する種や個体数が時間ごとに変わっていくこと(*1)。

*1:https://www.shinrin-ringyou.com/shinrin_seitai/seni.php

裸地から始まる

森のスタート地点は、植物がまったくない裸地です。例えば、火山が噴火して溶岩が流れると、その土地の植物は焼き尽くされるので裸地になります。岩石がごろごろしている裸地もあります。
森のチャンピオンは木であると紹介しましたが、裸地に木の種をまいたり苗木を植えたりしても育ちません。なぜなら裸地には水も養分もないからです。裸地に雨が降っても土壌がないため水は流れてしまいます。裸地には、木どころかいわゆる雑草すら生えません。
土壌は森にとって重要な要素になるので、あとで詳しく解説します。

裸地は遷移を繰り返さないと森になりません。木は、遷移がある程度繰り返された土地にやってきて、チャンピオンをかっさらうことになります。
遷移こそ、森で植物たちが繰り広げる戦争といえます。

最初の遷移:初代チャンピオンは地衣類とコケ植物

仮に裸地に草木の種が飛んできても成長しません。裸地には土壌がないからです。
土壌は、岩石や砂や粘土などに、動物や植物の遺骸が加わることでできあがります(*2)。したがって、植物がないと裸地は土壌になりません。植物がないと動物もあまりよってこないので、動物の遺骸による土壌づくりも進みません。

裸地が、草木を養うことができる土壌に変わるには「切っ掛け」が必要になります。地衣類やコケ植物が、その切っ掛けになります。

地衣類は、菌類が藻類と共生して1つの体をつくっている生き物です。「菌だけ」でも「藻だけ」でもないので、地衣類は植物ではないとされています(*3)。
地衣類の菌類は、胞子で増えます。
地衣類の藻類は、単細胞で地球上に30億年にわたって生存しています。一般的な植物は5億年ほどしか生存していないので、藻類の生命力の強さは別格といえます。藻類は温泉のなかでも、200メートルの深海でも生きることができます(*4)。
それで地衣類は裸地でも生存できます。

コケ植物は最も原始的な植物で、維管束を持っていない、という特徴があります(*5、6)。維管束は、根、茎、葉を貫いている管で、水分や養分を運んでいます(*7)。維管束は動物の血管に相当します。葉の筋である葉脈は、葉の維管束です。
維管束を持つ維管束植物は、根から水分や養分を吸い取らなければならないので、水分も養分もない裸地では生きていけません。
しかしコケ植物は維管束を持たず、そのため維管束に依存しないで生きていくことができます。つまりコケ植物は土壌に依存しないでよいので、裸地で生きることができます。

遷移の初代チャンピオンは、地衣類とコケ植物になります。

*2:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti4.pdf
*3:https://www.chiba-muse.or.jp/NATURAL/special/chii_nani/chii-index.html
*4:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20160330post-262.html
*5:https://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/bryophyte.html
*6:https://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001228282366178&p=2
*7:https://kotobank.jp/word/%E7%B6%AD%E7%AE%A1%E6%9D%9F-30084

先駆種の役割は、窒素を植物が使いやすいようにすること

裸地に地衣類とコケ植物がすみつくまでに4、5年かかります(*8)。
地衣類とコケ植物の遺骸が、土壌のベースになります。土壌のベースができあがると、草木の種が飛んでくれば育つ可能性があります。ただ、育たない可能性もあります。
草木の種が成長するかどうかは、土壌のベースに窒素が含まれるかどうかにかかってきます。

空気中の窒素は使えない。ではどうするか

窒素は、植物が必要とする養分のなかでも特に重要な物質です。窒素は空気中に大量に含まれていますが、植物は動物のように口から空気を吸うことができないので、植物は空気中の窒素を使うことができません。

そこで活躍するのが、ヤシャブシという植物です。ヤシャブシの根には放線菌という菌がすみついていて、この菌が空気中の窒素を吸収します。ヤシャブシは菌から窒素をもらうことができるので、窒素がない土壌でも生きることができます(*9)。
そしてヤシャブシの種はとても小さいので、風に飛ばされやすい特徴があります。

ヤシャブシが、地衣類とコケ植物が生息している土地にやってきて成長して枯れると、それが「植物の遺骸」になります。そうです、土壌の材料になる植物の遺骸です。
ヤシャブシは人が土地を肥沃にするときにも使われます(*10)。
ヤシャブシは、遷移が始まったばかりの土地に現れることから、先駆種と呼ばれます。

*8:https://www.shinrin-ringyou.com/shinrin_seitai/seni.php
*9:https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/seibutsukiso/archive/resume031.html
*10:http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/betulaceae/oobayasyabusi/oobayasyabusi.htm

草が生えて土壌改良が進む

土壌ができると1年生の植物である1年生草本が生存できるようになります。1年生草本とは、種から成長して花ができて1年以内に種をつくる植物のことです。
続いて、ススキやイタドリ、チガヤといった多年生草本が生えてきます。多年生草本は、地表の茎や葉が枯れても、翌年また、地下で生きている根や地下茎や球根から茎や葉が生えてきます。

多年生草本の根が岩石を砕き、大量の化学変化を生む

多年生草本の根はさらに、地下の岩石を使って土壌を「さらによい土壌」に変えていきます。
根が成長すると土中の岩石が圧迫され、砕けます。岩石が砕けると、岩石の表面積が増えます。例えば、球体を真ん中で2つに割ると、丸い部分の表面積は変わりませんが、平らな断面積の分だけ表面積が増えます。
表面積が増えた岩石は、二酸化炭素や酸化による化学的な変化が起きやすくなり、有機物と混ざって土壌の養分となります(*11)。
多年生草本には、土壌改良を促進する力があるわけです。

*11:http://www.cm.nitech.ac.jp/cho/earth_science/Lesson-09.pdf

木たちの熾烈な戦いが始まり、そして終わる

遷移が残酷なのは、ここからです。
1年生草本や多年生草本は、自分たちで死んで土壌の養分となり、自分たちの根で岩石を砕いてさらに土壌改良を行います。そうやって裸地を楽園にしたのに、それが奪われてしまいます。
最初の土地泥棒は、「陽樹の低木」です。

最初の土地泥棒である陽樹の低木が、陽樹の高木に倒されるまで

陽樹とは光を多く必要とする木のことで、光をそれほど必要としない木のことを陰樹といいます。

陽樹の低木は成長が早いので、できたばかりの良質な土壌を真っ先に奪い取ることができます。陽樹の低木には、ヤシャブシやヤマツツジ、ハコネウツギなどがあります。

陽樹の低木は高木になることができません。そのため、遅れて成長する陽樹の高木に勢力を奪われてしまいます。
なぜなら、陽樹の高木が成長すると、太陽の光を独り占めにされるからです。陽樹の高木が大きくなったり、その葉が生い茂ったりすると、下に光が届かず、下の植物は光合成を行うことができず枯れてしまいます。光合成は、光エネルギーを使って二酸化炭素と水を成長エネルギーに変える行為です。
陽樹の高木にはアカマツやコナラなどがあります。

クライマックスは突然に

太陽の光を存分に浴びることができる陽樹の高木なら、森のチャンピオンであり続けることができそうですが、そうはいきません。遷移はまだ続きます。
陽樹の高木は、自分は光を浴びて元気になりますが、地面近くの林床の光を奪うので、自分の子供たちが成長できません。
そのため、陽樹の高木の足元で、光をそれほど浴びなくても成長できる陰樹の勢力が増していきます。
陰樹が成長すると、陽樹の高木と陰樹の高木が森のチャンピオンになりますが、陽樹の高木が寿命を迎えると、陽樹の後輩は育っていないので、森のなかは次第に陰樹の高木だらけになります。

これが森のクライマックス状態で、これ以上遷移は起きません。この陰樹の高木が生えている状態を「極相」といいます。
陰樹にはブナ、シイ、カシ、ヒバ、エゾマツなどがあります。ブナの森やエゾマツの森は、森の最終形である極相です。

他の植物は木の「おこぼれ」で生きていく

もちろん森には、陰樹の高木以外の植物も存在します。森は広いので、陰樹だけではすべてを制圧できず、それでその他の植物が生きる余地が生まれます。
また、陰樹の高木が寿命を迎えて倒れると、その周辺の土地に光が差すので「ミニ遷移」といえるような現象が起きます。

森と戦わなければならないから林業は難しい

日本の森林面積は2,510万ヘクタールで、国土の66%を占めます(*12)。日本の森林割合の高さは世界有数です。ところが日本の木材自給率は3割にすぎません(*13)。
日本には大量の木があるのに、大量に輸入しています。それは、森が植物にとっての戦場だからです。木材になり得る木でも森では生きにくく、木を生産することは手間とコストと時間がかかります。

*12:https://www.shinrin-ringyou.com/forest_japan/menseki_japan.php
*13:https://www.shinrin-ringyou.com/data/mokuzai_kyoukyu.php

スギやヒノキでも簡単にはチャンピオンになれない

木材としてよく使われる木に、スギとヒノキがあります。スギは陽樹または半陰樹に分類されます、ヒノキは陰樹です(*14、15)。
つまりスギやヒノキは、森のなかでは最強の部類に入ります。それでも厳しい戦いに勝ち残らなければ、木材に使える高木や大木になることができません。

*14:http://kawasakimidori.main.jp/webzukan/sugi.html
*15:https://kotobank.jp/word/%E9%99%B0%E6%A8%B9-32901

10年に及ぶ草刈りや50年以上の世話が必要

スギを商品価値のある木材として生産するには、人の手で苗木を森のなかに植えていかなければなりません(*16)。これを植林といいます。「森のなかの土地は栄養満点だから、スギの種をまけばそれで済みそう」な気がしますが、人工林をつくるにはそれでは駄目なのです。

苗木は、苗木どうしで生存競争させなければならないので、密集して植えます。
苗木を植えてから10年くらいは、毎年草刈りをしなければなりません。そうしないと、苗木より背が高い草木に光を奪われてしまうからです。陰樹や半陰樹であっても、光が多いほうが成長できます。
スギがある程度成長すれば草刈りはしなくて済みますが、今度はツルが幹にまきつくので、これを刈り取ります。

さらに成長すると、スギの幹の下のほうの枝を伐採します。これを枝打ちといい、これをしないと枯れた枝から害虫が入ってきて、幹を腐らせてしまいます。
20~30年が経過すると、苗木を密集して植えたせいで、スギ林が込み合ってきて成長しにくくなります。それで間伐を行います。せっかく20~30年育てたスギでも、一部は間引きしなければなりません。
間伐をすると、残ったスギはしっかり根を張るようになり、台風や大雪に強い木になります。

スギが木材になるには50年かかります。高級スギ木材をつくるために、100年育てることもあります。
50~100年もの間、林業の人たちは、スギを森の脅威から守り続けなければなりません。林業とは、森との戦いです。「それならば安い輸入材を購入しよう」となり、森林大国・日本が木材輸入大国になっています。

*16:https://www.shinrin-ringyou.com/ringyou/ringyou_work.php

まとめ~雑草と巨木を見る目が変わる

農家や林業家だけでなく、ガーデニングをしている人や家庭菜園をしている人でも、植物を育てるには、雑草刈りの大変さと重要性を知っていると思います。
雑草刈りが大変なのは当然で、何しろ雑草には、森をつくるという壮大なミッションが与えられているのですから。

大木のことを神木と呼び、そこに神が宿っていると考えるのも、納得できます。大木は、植物たちが繰り広げた激しい戦いを勝ち抜いたので、多くの人が「神がかりな力が働いた」と考えても不思議はありません。
遷移の仕組みを知ると、雑草と巨木を見る目が変わってくると思います。

動物は奪い合うのに、植物は平和「それは光合成のおかげ」

植物をじっと見ていると、うらやましくなりませんか。
植物はその場所をずっと動かず、他者から奪うことなく、静かに生きています。
ところが動物はというと、例えばライオンはシマウマを襲って食べなければ生きることができません。シマウマはライオンに襲われないように、脚力を鍛えて逃げなければなりません。人間にいたっては、他者から奪うために人殺しをしたり、戦争まで引き起こしたりします。

このように生き方の違いを哲学的または詩的に考えると、植物は尊く、動物は愚かで、人間はさらに愚かなように感じます。
ただ、エネルギーの獲得の観点から考えると、植物の生き方と動物の生き方に大きな違いがあるのは仕方がないようです。

動物は自分でエネルギーを生み出せないので、動き回って他者から奪ってエネルギーを獲得するしかありません。しかし植物は、身の回りのありふれたものだけで、自分の体内でエネルギーをつくることができるので、平和に暮らすことができています。

植物が平和なのは、光合成をしているからです。
したがって、人類が人工的に光合成を実行できるようになれば、世界平和が訪れるかもしれません。そして人工光合成は、夢物語でなくなりつつあります。

エネルギー獲得機構が体内にあるか体外にあるかの違い

エネルギー獲得機構が体内にあるか体外にあるかの違い
エネルギー獲得機構が体内にあるか体外にあるかの違い

植物も動物も生物である以上、1)誕生して、2)エネルギーを獲得して、3)排泄して、4)成長して、5)死ぬ―の5つのことをします。
そして、植物と動物の生き方を大きく変えているのは、2)のエネルギーの獲得方法です。

動物が動き回って他者から奪ってエネルギーを得るのに対し、植物は光合成をしてエネルギーを得ます。
光合成は植物の体内で行なわれます。動物が、エネルギーを外から体のなかに入れるのに対し、植物は体内でエネルギーをつくるわけです。概念図で示すとこのようになります。

植物と動物のエネルギーを生み出す概念図
植物と動物のエネルギーを生み出す概念図

植物の光合成も、動物の他者から奪う行為も、いずれも「エネルギー獲得機構」といえます。

植物のウンチは酸素

植物のウンチは酸素
植物のウンチは酸素

生物が生存のために必要とするエネルギーにはさまざまな種類がありますが、ここでは糖をエネルギーの代表として考えていきます。
そして、動物は他の動物も食べますが、食べられてしまう動物も、元をたどれば植物からエネルギーを得ています(*1)。したがって、究極的にはすべての動物は植物を食べて生きているといえます。
この点を押さえたうえで、植物と動物の「生き様」をみていきましょう。

*1:http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/hikosaka_lab/hikosaka/brief.html

「生き様」は植物も動物も同じ

「植物は体内で糖をつくって生きる」「動物は他者から糖を奪って生きる」という説明を聞くと、植物と動物はまったく異なる生き方をしているように感じるかもしれません。
しかし、植物と動物の生存は次のようになっていて、両者がまったく同じ構成であることがわかります。

<植物の生存の構成>

二酸化炭素
酸素
植物+生存+糖(光合成)

酸素

二酸化炭素+水+太陽光

 
<動物の生存の構成>

二酸化炭素
酸素
動物+生存

排泄物

糖(食べる)

動物は、糖を食べて、酸素を吸って、二酸化炭素を吐いて、排泄物を排出して生存します。
植物は、空気中から二酸化炭素を得て、根から水を吸収して、太陽光を受けて、体内で光合成をして糖を生み出し、その糖を使って、酸素を吸って、二酸化炭素を吐いて、酸素を排出して生存します。

ここで注目したいのは、次の3点です。

ポイントA:植物も酸素を吸って、二酸化炭素を吐いている(呼吸している)
ポイントB:呼吸とは別に、植物は排泄物として酸素を排出している
ポイントC:植物は糖を食べる代わりに、二酸化炭素と水と太陽光を必要としている

植物は吸う酸素より吐く酸素のほうが多い

ポイントAについて解説します。
植物は地球に酸素を供給する生物ですが、生物として生きるためには、動物と同じように酸素を吸って二酸化炭素を吐く必要があり、これを呼吸といいます(*2)。
ただ、植物は、呼吸で吸う酸素より、光合成の結果排出する酸素のほうが多くなります。つまり、「吐く酸素>吸う酸素」「吸う二酸化炭素>吐く二酸化炭素」となるので、それらを相殺すると植物は「酸素を吐いて、二酸化炭素を吸う」生物になります。

ポイントBですが、概念図から、動物の排泄物に相当するものが、植物では酸素になっていることがわかります。
「植物目線」でみると、酸素はウンチなわけです(*3)。酸素をウンチとみなすことで、植物と動物の生存の構造が同じになります。

*2:https://benesse.jp/teikitest/chu/science/science/c00622.html
*3:https://katekyo.mynavi.jp/juken/16987

水も二酸化炭素もエネルギーではないのにエネルギーになる

ポイントCが、光合成の説明になります。
植物も、水と二酸化炭素と太陽光を体の外から得ているのですが、水も二酸化炭素もエネルギーではありません。そのため動物の場合は、水と二酸化炭素と太陽光しか得られないと死んでしまいます。
植物は体内に光合成を行うメカニズムがあるおかげで、エネルギーではない水と二酸化炭素と太陽光があれば生存できるのです。

光合成の正体

光合成の正体
光合成の正体

光合成はなぜ、エネルギーではない水と二酸化炭素から、エネルギーである糖をつくることができるのでしょうか。まるで無から有をつくっているようです。
しかし、無から有をつくることはできません。糖の生産の鍵を握るのは、太陽光です。太陽光が持つ光エネルギーが、糖というエネルギーを生む化学物質をつくっています。

水と二酸化炭素を「バラバラ」にして「加工」するとブドウ糖と酸素ができる

糖の代表であるブドウ糖の化学式はC6H12O6なので、CとHとOだけでできていることがわかります。
水はH2O、二酸化炭素はCO2なので、これもCとHとOだけでできています。ここから、水と二酸化炭素を「加工」すれば、ブドウ糖(糖)ができることがわかります。

H2Oを6個、CO2を6個用意して、これらを「バラバラ」にすると、Cが6個、Hが12個、Oが18個できます。
バラバラにしたものを組み合わせてC6H12O6(ブドウ糖)を1個つくると、Oが12個余ります。Oが12個あれば、酸素(O2)が6個できます。
このように、水と二酸化炭素から、ブドウ糖と酸素ができました。
化学式ではなく、あえて数式で表すとこのようになります。

(H2O ×6)+(CO2×6)=
(C×6)+(O×12)+(H×12)+(O×6)=
(C×6+H×12+O×6)+(H×12)=C6H12O6+(O2×6)

これは一見すると辻褄(つじつま)が合っているようにみえますが、実はそうではありません。

光エネルギーと光合成の仕組みが必要

水を入れたコップにいくら二酸化炭素を吹きつけても、ブドウ糖はできません。水と二酸化炭素を「バラバラ」にすることも、そこから「加工」してブドウ糖と酸素をつくることも、今のところ光合成でしかできません(*4)。
ただ、人工的に光合成をつくる取り組みも進められていて「かなりいいところ」まできているので紹介します。

*4:http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/hikosaka_lab/hikosaka/brief.html

人工光合成をつくることはできるのか

人工光合成をつくることはできるのか
人工光合成をつくることはできるのか

資源エネルギー庁は、人工光合成は温室効果ガス対策になると考えています(*5)。

*5:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/jinkoukougousei.html

光触媒と工場排出二酸化炭素を使う

光触媒という物質は、太陽光を受けると化学反応を起こします。光触媒を水につけて太陽光を当てると、水が水素と酸素に分離します。そこから水素だけを取り出して、工場などから排出される厄介者の二酸化炭素を合わせて化学的な処理を行うと、オレフィンというプラスチックの原料ができます。
これが、人工光合成です。

すなわち「光触媒+太陽光+水→水素+酸素」→「水素+二酸化炭素+化学的な処理→オレフィン」となり、光触媒と太陽光と水でオレフィンという化学物質を生み出しています。
これは、水と二酸化炭素と太陽光で、糖という化学物質を生み出す、植物の光合成と似ています。

そして人工光合成は、工場などから排出される二酸化炭素を使っている点もポイントになります。通常の方法でオレフィンをつくれば新たに二酸化炭素を生むことになるので、地球温暖化を進めてしまいます。しかし工場が排出した二酸化炭素を使ってオレフィンをつくれば、実質的に地球上の二酸化炭素を減らしたことになります。

光触媒とは

光触媒の「触媒」とは、他の物質の化学反応を手助けする物質です。
光触媒はすでに人工光合成以外の用途では実用化されています。光触媒を建物の外壁の表面に塗ると、空気中の有害物質が、太陽光と有害物質に反応して、無害な水(水蒸気)に変わります(*6)。

*6:http://www.biomimic-c.com/service/biomimic_coat/photocatalyst/

画期的な光触媒が誕生「夢の10%達成」

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と東京大学などは2020年6月に、人工光合成に使える、画期的な光触媒を開発したと発表しました(*7)。
人工光合成の成否を測る指標に、「太陽光を水素に変換する効率」(STH)があります。STHが10%以上に達すると、サハラ砂漠の3%の面積に光触媒を敷き詰めるだけで、全世界の消費エネルギーを補える水素を確保することができます。
今回の光触媒は、「特殊な環境下であれば」という条件つきですが、理論上STHが10%になることが確認されました。

電気を使えば、水を水素に変えることは簡単です。したがって太陽光発電でつくった電気でも水を水素に変えれば、「太陽光+水→水素」になります。しかしこれはとてもコスト高な方法です。
一方、画期的な光触媒が完成すれば「太陽光+光触媒+水→水素」となり、これは断然低価格で運用できます。
今後研究が進み、「普通の環境下でも」STH10%を達成できる画期的な光触媒を開発できれば、夢のエネルギーになるはずです。

*7:https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/00903/?ST=msb

まとめ~世界平和が実現するか

まとめ~世界平和が実現するか
まとめ~世界平和が実現するか

人間どうしで奪い合うのは、他者からエネルギーを奪い取るためです。
誰でもどの国でも簡単に高性能の人工光合成を使うことができれば、無尽蔵にある水と無尽蔵にある太陽光からエネルギーを得ることができるので、他人のエネルギーを奪う必要がなくなり、理論上は戦争がなくなります。獲得したエネルギーで食物をつくれば、飢餓も理論上なくなります。
人々が無料でエネルギーを得ることができれば、労働をする必要性も薄れます。労働から解放されるので、究極の働き方改革といえます。
人工光合成にこれほど大きな可能性が詰まっていることを考えると、道端の雑草が簡単に光合成をしていることがとてつもなくすごいことに思えてきます。

「植物を怒らせるな」毒を吐くし共食いを誘う恐い一面も

植物は、動物のような攻撃はしません。
しかし、植物に「ちょっかい」を出すと攻撃してくることがあります。ジャガイモの芽に毒があることは有名ですが、このような身近な野菜ですら「恐ろしい」攻撃力を持っています。
その他にも、キリンを退治する植物や、蛾の幼虫を共食いに誘う植物もあります。
植物どうしでコミュニケーションを取って連携して外敵から身を守ることもあります。
植物を怒らせないようにしましょう。

ジャガイモの毒の仕込み方が恐い

ジャガイモの芽には、ソラニンとチャコニンという毒が含まれています。
体重50kgの人がソラニンまたはチャコニンを150~300mg(0.15~0.3g)摂取すると、死ぬこともあります(*1)。そこまで大量に食べなくても、吐き気、下痢、腹痛、頭痛、めまいを起すことがあります。

*1:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/potato.html

緑色の部分も恐い

農林水産省は、ジャガイモの芽だけでなく、緑色になった皮の部分にも注意するよう呼びかけています(*1)。
収穫されたジャガイモは、しばらく光に当たると緑色になります。

農林水産省は、ジャガイモの芽だけでなく、緑色になった皮の部分にも注意するよう呼びかけています
農林水産省は、ジャガイモの芽だけでなく、緑色になった皮の部分にも注意するよう呼びかけています

出典:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/potato.html

安全なジャガイモにもソラニンとチャコニンは含まれていますが、その量は100g中、7.5mg(0.0075g)ほどです。ソラニンまたはチャコニンを50mg(0.05g)摂取すると症状が出るので、安全なジャガイモは、一度に667g(=(50mg÷7.5mg)×100g)以上食べなければ問題ありません。

しかし、緑色の部分には、100g中100mgものソラニンまたはチャコニンが含まれています。緑色の部分を50g食べただけで、ソラニンまたはチャコニンの量は症状が出る50mgに達します。
そのため、ジャガイモの緑色の部分やジャガイモの芽は、絶対に食べないようにしてください。

「子孫を残すことを邪魔する奴は許さない」と言っているよう

ジャガイモは、ビタミンやデンプンが豊富に含まれる優れた野菜です。ドイツはジャガイモを主食にしているほどです(*2)。
つまりジャガイモは「人に優しい」植物といえます。それなのになぜ、人に牙をむくことがあるのでしょうか。
その答えは、「芽と緑色の部分だけは守りたいから」です。

芽は、ジャガイモが成長するために必要な部分です。そしてジャガイモは、成長に必要な光を浴びたときに緑色になります。
芽も緑色の部分も、ジャガイモの子孫を残すのに重要な部位です。だからジャガイモは、芽と緑色の部分に「毒を仕込んだ」のです(*3)。
ジャガイモは「子孫を残すことを邪魔する奴は許さない」と言っているわけです。

*2:http://textview.jp/post/hobby/28382
*3:https://www.nhk.or.jp/radio/kodomoqmagazine/detail/20180828_04.html

アカシアは3つの対策でキリンを退治する

アカシアは3つの対策でキリンを退治する
アカシアは3つの対策でキリンを退治する

アフリカなどに生えているアカシアは防御に優れた植物で、長い棘(とげ)で身を守ります。それでも食べにくる動物に対しては、アカシアは10m以上に成長することで対抗しました。
それでも食べに来るのが、キリンです。
そこでアカシアは、3つの対策でキリンを退治することにしました(*4)。

*4:https://ddnavi.com/serial/551283/a/

対策1:まずい成分を出して食べにくくする

キリン対策の1つ目は、キリンに食べられると葉に「まずい」成分を出す方法です。まずいので、キリンはそれ以上食べなくなります(*5)。
まずい成分のことを、ジャスモン酸といい、アカシア以外の植物も持っています。
ジャスモン酸が発生するメカニズムを紹介します。

植物の葉が草食動物に齧(かじ)られると、葉のなかに植物ホルモンの一種であるシステミンが発生します。システミンは植物の「体内」の全体に巡り、細胞に作用します。

植物の細胞は、1つひとつが細胞壁で区切られていて、細胞壁に内側には細胞膜が張られています。細胞膜に、システミンの受容体があります。
受容体とは、「受け入れるモノ」を受け入れたときに、新たな作用を引き起こす物質です。システミンの受容体は、システミンを受け入れます。
受容体がシステミンを受け入れると(結合すると)、ジャスモン酸が発生します。ジャスモン酸も植物ホルモンの一種です。

*5:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=23&key=&target=

対策2:タンパク質を分解できなくさせる

ジャスモン酸は「まずい」だけでなく、ジャスモン酸を食べた動物に健康被害を与えます。

ジャスモン酸は、タンパク質分解酵素阻害物質をつくります(*6)。
タンパク質を分解する酵素の働きが阻害されると、動物は困ります。なぜなら動物は、タンパク質を食べて、タンパク質を分解して(消化・吸収して)生きているからです。
そのため動物は、タンパク質の分解を阻害する植物は食べないようになります。なぜなら、タンパク質分解酵素阻害物質を摂ってしまうと、タンパク質をいくら食べて栄養不足の状態に陥るからです。
タンパク質分解酵素阻害物質をつくることが、アカシアのキリン対策その2になります。

*6:https://www.youtube.com/watch?v=NfO0i-Ev-W8

対策3:近くの別のアカシアに危険を知らせる

アカシアにはコミュニケーションを取る能力があるのではないか、という仮説があります。これを「植物が話す仮説(talking plant hypothesis)」といいます(*5)。

アカシアがキリンに食べられると、ジャスモン酸をつくることは先ほど紹介したとおりです。ジャスモン酸はさらに、揮発性化合物という物質をつくり、これがアカシアの体内から外に向かって放出されることで、近くの別のアカシアが危険を察知して、やはりジャスモン酸をつくるわけです。この作用により、キリンは少しアカシアを食べただけで、そのアカシアだけでなく、周辺のすべてのアカシアを食べられなくなります。

これはまるで、キリンに食べられたアカシアが、仲間のアカシアに「キリンが来た! まずい成分のジャスモン酸を出して、キリンに食べられないようにしろ!」と警告しているようです。それで「植物が話す」と考えられているわけです。

「植物が話す仮説」はまだ仮説の段階ですが、それでもほぼ間違いない説といえるまで研究が進んでいます。それでも「仮」が取れないのは「植物の鼻」がみつからないからです。
あるアカシアが出す揮発性化合物を、近くの別のアカシアが「嗅ぎ取る」のであれば、アカシアに「鼻」のような器官がなければならないはずですが、それはまだみつかっていません。
ちなみに、植物どうしは地下で「根っこ」で会話しているのではないか、という仮説もあります(*5)。

トマトは蛾の幼虫を共食いさせて自分の身を守る

トマトは蛾の幼虫を共食いさせて自分の身を守る
トマトは蛾の幼虫を共食いさせて自分の身を守る

これから紹介する2つの研究結果を知ると「あのトマトにこれほどの攻撃力があったとは」と驚くと思います。
2つの研究をしたのは、アメリカのウィスコンシン大学マディソン校の動物学研究者のジョン・オロック氏です。

驚きのトマト1:カタツムリの気配を察知して防御する

カタツムリはトマトを食べてしまいます。それでトマトは、カタツムリに食べられると、体内にリポキシゲナーゼという酵素を発生させ、自分自身を「まずく」させます。
リポキシゲナーゼは、人が食べても「まずく」感じます。大豆の加工食品をつくるときも、リポキシゲナーゼの除去が課題になっています(*7)。

ただこのメカニズムは、アカシアがジャスモン酸をつくって自らを「まずく」するのと似ているので、驚きはないと思います。

オロック氏は、カタツムリが這うときに出す粘液を、トマトの苗木の近くの土壌に注入しました。するとそのトマトの体内のリポキシゲナーゼが増加したのです。
トマトは、実際にカタツムリに襲われたわけではないのに、カタツムリの気配を感じただけで防御策を取ったことになります(*8)。

*7:http://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/shokuhin_news/s_no10_04.pdf
*8:http://www.nikkei-science.com/?p=56316

驚きのトマト2:食べ物と呼べないくらいまずくする

オロック氏は別の実験で、次のことを試しました(*9)。

●トマトの苗木の近くに、蛾の幼虫を2匹置く
●トマトの苗木にジャスモン酸を散布する

この結果、2匹の蛾の幼虫はトマトを食べずに、共食いを始めました。
実験ではジャスモン酸をトマトの苗木に散布しましたが、トマトは自身でジャスモン酸を出すことができます。
この実験結果により、蛾の幼虫が「ジャスモン酸が増えた『まずい』トマトを食べるくらいなら、仲間を食べたほうがまし」と判断したことがわかります。

動物は原則、共食いはしません。共食いは、自分たちの種を自分たちの手で絶やすことになるからです。しかし、その他に栄養を摂る手段がないときは、自分が生きるために共食いをします(*10)。
「もうそれしかない」とき、自分の命を守るために共食いをするわけです。つまり、ジャスモン酸が増えたトマトの「まずさ」は、蛾の幼虫にとって、大好物のトマトを食べ物とみなせないほどの「ありえないまずさ」であるといえます。

オロック氏は、植物を食べる蛾の幼虫の成長スピードと、共食いをした蛾の幼虫の成長スピードを比べて、両者に差がないことも確認しています。
蛾の幼虫にとっては、「ありえないまずさ」のトマトを食べずに共食いをすることは、合理的な行為でもあるわけです。

*9:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/071200264/?P=1
*10:https://sites.google.com/site/teamnagata2013/home/3

まとめ~植物の武器は化学

植物の武器は化学です(*11)。植物は動くことができません。しかし、自分の体内の成分や物質を化学変化させることで、動かずして動物を攻撃したり、動物の攻撃から自らを守ったりしたりしています。
動くことでしか攻撃力と防御力を生み出せない動物と比べると、植物のほうが賢いような気がします。
動物が生き続けるには、植物を食べなければならないので、植物を「怒らせず」「まずくさせず」利用していきましょう。

*11:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=23&key=&target=

興味深い植物「ヘナ」について

今日は、ナツシロギクやパルテノライドのことではなく、植物つながりということで実に興味深いヘナという植物について書いてみたいと思いますので、少しお付き合い下さい。

ヘナは、ミソハギ科の植物です。
学名は「ローソニア イネルミス(Lawsonia inermis)」和名は「指甲花(シコウカ)」英名は「ヘナ(Henna)」インド名では「メヘンディ(Mehendi)」と呼ばれています。主にインド、ネパール、パキスタンなどの西アジア一体、太陽がよく照りつける水はけの良い土壌に帰省しています。

全長約1.8mから最大7.6mほどの高さにまで達するヘナの木。
約3年の歳月をかけて成長し、150cm以上を目安に20〜30cmほど残して刈り取られます。枝に対して左右対象に2枚のなめらかなちょうど槍の穂先のようなかたちの葉をつけ、葉の大きさは長さ2cm、幅1cmくらいの楕円形です。そして、香り高い約6mmの花を2房状に咲かせます。白から桃色、もしくは朱色、赤色へと色が変わる花びらが印象的です。花を咲終えると、青黒い鞘をつけ、その中には三角形の小さな種が入っています。ヘナの主な害虫はシロアリです。

ヘナの効用

自然界に生息する植物や生物のなかには、ナツシロギクのパルテノライドよろしく、まるで神様が意図的に目的をもち、その成分を処方したような不思議な力を備えたものが存在します。まさにヘナもそのひとつです。過酷な自然環境下で暮らす人々の肌や髪、そして健康を守るミラクルプランツなのです。

ヘナに含まれるローソン(ローソニア・アルバ)という成分には、殺菌、抗炎症、止血作用という薬草効果があり、古来より湿布薬ら傷薬、止血、火傷、吹き出物、皮膚病、打撲傷、生理不順などの予防や治療に効用があるといい伝えられてきました。同時に緊張した神経を緩和させることにも優れ、リラックス作用をもたらします。

その効用は医療の世界でも役立てられています。たとえば、花、葉、新生枝からの抽出物はハンセン病治療に活用されているそうです。1990年2月に発表されたインドの科学者B・チャンダヌビーケー氏の論文によると、ヘナのなかのローソンという成分が肝臓の毒素を取り除くのに有効であること、またヘナによって睡眠が深くなるということが報告されています。そのうえ、ヘナの葉に含まれるナフトキノンという成分が子宮の働きをを 整え、生理不順を治す効果があると記されています。

また、ヘナのもつローソンという赤色色素には、タンパク質と反応する特性があります。このことに着目したインドの人々は、古くから髪や肌などを着色することにヘナを使用してきました。薬としての役割だけではなく、暮らしを豊かにすることにもヘナは愛用されているのです。

ヘナの部位別効能表

寒性(体の熱を冷ます作用)、睡眠誘導作用
抽出液は香水のもとになる
精油は貴重なオイルである
防腐作用がある
花と種子の浸出液は頭痛や傷によい
花を詰めた枕には睡眠誘導作用がある
種子 消臭作用がある
葉と種子は生理痛やおりものによい
大脳興奮作用があり、記憶精神機能改善が期待される
収れん作用
洗浄力
消臭作用
新鮮な葉を水で溶き、ペースト状にして染毛料に頭痛時やリウマチなどの痛みにペースト状にしたものを湿布薬として使用
足の裏に湿布すると下肢の灼熱感によい
軟膏にして傷に用いる
口内炎や咽頭炎にうがい液として使用
葉の煎じ液は、擦り傷、切り傷、炎症、火傷によい
薬の成分を油や水に抽出して使用(頭痛や皮膚の改善)
根部(樹皮) 収れん作用
鎮痛作用
煎じたものは、黄疸、結石、難治性皮膚病によい

薬用としてのアプローチ

ヘナは自然がもたらす薬草として、インドの伝承医学「アーユルヴェーダ」やイスラムの伝統医学「ユナニ医学」によって古くより用いられてきました。同じく、北アフリカでも伝統的な治療薬となっています。
古代エジプトの象形文字で記された書物をはじめ、旧約聖書の「雅歌(ソロモンの歌)」や中世イスラムの世界が生き生きと描かれている「千夜一夜物語(アラビアンナイト)」には、ヘナは「治療のためのハーブである」と記されています。また、モハメドは信者たちに「ヘナをイスラムの色として、また楽園のハーブとして使うように」と忠告し、自身の傷を癒やすためにヘナを愛用していました。
そして、インドの聖典に約12,000もの詩を紡いだヒンドゥーの聖人は「ヘナは鼓動、心の躍動の源であり、諸病気の敵である」と述べ、医薬品と科学の分野からもその優れた効用を見出していました。

日本では、ごく一部の人が白髪染めを目的として使用しているのが現状です。インドやイスラム社会ではこうした染毛目的だけではなく、そのさまざまな薬効を日常生活に取り入れています。自然の恵みがもたらすヘナをボディパックや入浴剤などに用い、子どもからお年寄りまで、幅広く愛用しているのです。

それでは次に各国のヘナの「処方箋」ともいうべき、ユニークで興味深い薬効としての使用方法を見てみましょう。

各国のヘナの「処方箋」

ヘナペーストを肌に塗布することで、葉に含まれる活性成分が皮膚表面に付着するカビやバクテリアから肌を守ります。同時に収れん作用が働き、解熱や頭痛の緩和、ヒステリーや凶暴な気分を和らげる作用もあるとされています。

インド、ネパール、ジャワ地方
ヘナの葉を切り刻んだものを煎じ、冷やした液をヘルペスの発疹に塗布しています。またヘナのアルコール抽出物は、サルモネラ菌、大腸菌のほか、経口性の伝染病菌に対しマイルドな抗菌性を発揮するそうです。

イエメン
身体をバラの香水で洗い、ヘナペーストで手足を染めるなど、年齢にかかわらず、肌のしなやかさと滑らかさを保護するために使用されています。

ペルシャ湾周辺やクエート
天然真珠業者たちもヘナペーストを愛用しています。櫓を漕いだり、網を引いたりするときにできる擦り傷やマメを防ぐために役立てています。

西アフリカ マリ
連日38℃以上の高温のなかで暮らす西アフリカのマリの人々。足のかかとにヘナを塗り、冷やすことで地面から照り返す暑さを封じ込めるのだとか。同じく、アラブ連盟国のベドウィンの人々は夏場の砂の熱から身体を保護するためにヘナで足裏を染めます。また暑さからくる頭痛や目の炎症を抑えたり、ボール状のヘナペーストを掌に置き、子どもの発熱を下げる「自然の寒剤(解熱剤)」として愛用されています。

アラブ
アラブの医学書には、新鮮なヘナの花の香りを吸引することで不妊や精力減退を治すと記されています。

マレーシア
ヘナを煎じて喉のただれやかすれ声を治すうがい薬として使用。そのろ過液は、下痢や赤痢の症状をやわらげるものとして重宝されています。

アルジェリア
ヘナの葉をサンダルに忍ばせ、防臭剤として使用しています。

ナイジェリア
ヘナの花の精油を肌に刷り込み、発汗を抑え、同時に身体の香りづけとして愛用しています。